みなさんはムスリムとイスラムの違いが分かりますか?
英語だと”Muslim”と”Islam”ですが、混同して使っている人がたくさんいます。「ムスリム」と「イスラム」という言葉は、ニュースやSNSでも頻繁に目にしますが、なんとなく同じ意味のように扱われてしまうことも少なくありません。
旅行先や仕事でムスリムの人と接するときにも、基本的な理解があるかどうかで、相手への配慮やコミュニケーションの取り方は大きく変わってくると思います。イスラム教に関するニュースを見たときにも、何が宗教の教えで、何が個々の人の行動なのかを整理しやすくなるのはないでしょうか。
今回の記事では、意外に多くの人が知らないこのムスリムとイスラムの違いを紹介します。
区別していない人が多いムスリムとイスラム
僕の職場にはイスラム教徒のサウジアラビア人がいることもあって、お昼時やアフターファイブでイスラム教の話題が出ることがあります。この2つの言葉は似ているようで、指しているものがはっきり分かれています。
実は、このイスラム教に関連する単語”Muslim”と”Islam”は、意味が少し違うんですが、イギリス人やイギリスに住んでいる英語が流暢な外国人の中にも、両者を混同して使っている人がいます。
なんて偉そうに書いていますが、恥ずかしながら僕がこの違いを知ったのもついちょっと前のことです。もちろん両単語を逆に使っても、言いたいことは通じるのですが、折角なのできちんと覚えておきましょう。
Islam(イスラム)は宗教の名前
Islam(イスラム)は、もともとアラビア語で「神に身をゆだねること」「神に服従すること」を意味する言葉で、そこからイスラム教という宗教そのものを指す名称として使われています。
宗教としてのイスラム教は、7世紀のアラビア半島で始まり、神の言葉を記した聖典クルアーン(コーラン)を中心とする一神教です。イスラム教には国籍や人種による区別がなく、現在では世界中におよそ19億人の信者がいるとされ、キリスト教・仏教と並ぶ世界三大宗教の一つに数えられています。
つまり、キリスト教や仏教のように「教え」や「信仰の体系」を表す言葉だと考えると理解しやすいです。
Muslim(ムスリム)は信者を指す言葉
一方でMuslim(ムスリム)は、イスラムを信仰する人、つまりイスラム教徒のことを指します。語源はアラビア語で「神に服従する者」「神に身をゆだねた者」という意味があり、唯一神アッラーを信じ、クルアーンや預言者ムハンマドの教えを受け入れた人を指します。
ムスリムは性別・年齢・民族に関わらず神の前では平等だとされます。世界中にさまざまな文化や生活スタイルを持つムスリムがいますが、「アッラーを唯一の神として信じる」という点で共通の信仰を共有しているのが特徴です。
Islam(イスラム)とは?
イスラム教は、ただ信じるだけではなく、信仰と行動の両方を大切にする宗教として知られています。イスラム教の基礎としてよく挙げられるのが「六信五行」です。
- 六信(信じるべきもの):神、天使、啓典、預言者、来世、天命
- 五行(行うべきこと):信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼
五行の中でも、日々の暮らしに深く関わるのが礼拝です。一日の時間を区切って神に向き合うことで、信仰を日常の中で意識し続けることが重視されています。喜捨が五行のひとつに入っていることからもわかるように、イスラム教では富を分け合う姿勢も大切にされています。
イスラム教における食事のルール
イスラム教には、食事に関する考え方として、ハラール(許されたもの)とハラーム(禁じられたもの)があります。
例えば、豚やアルコールは原則として禁じられたものに含まれ、肉類は特定の方法で屠畜されたものであることが求められます。
こうしたルールは、単に健康や衛生の問題ではなく、「神の定めに従う」という宗教的な意味合いが強いものです。
何を食べ、何を避けるかといった日常的な選択も、イスラム教では信仰と深く結びついています。
ラマダンと断食の意味
イスラム教には、ラマダンと呼ばれる断食月があります。イスラム暦の第9月にあたり、この期間中は夜明けから日没まで飲食を控えることが基本とされています。
断食の目的は、単に食べ物を我慢することではなく、自制心を養い、恵まれない人々の状況に思いを馳せ、神への感謝を新たにすることにあります。病人や妊婦、旅行中の人などには免除や振替のルールもあり、状況に応じた柔軟さも備わっています。
Muslim(ムスリム)とはどんな人たち?
イスラム教を信じる人たち、ムスリムについて見ていきましょう。「ムスリム」というと中東のイメージが強いかもしれませんが、実はイスラム教徒が最も多い国はインドネシアであり、南アジアや東南アジアにも多くのムスリムが暮らしています。
アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸にも大きなムスリムコミュニティがあり、日本にも留学生や技能実習生、移住者のムスリムが増えています。
同じムスリムと言っても、その暮らしぶりや文化は地域によって大きく異なります。服装や食文化、家族観などは、宗教だけでなく、その土地の歴史や社会によって形作られている部分も多いのです。
1日5回の礼拝が生活のリズムを作る
ムスリムの生活の大きな特徴として、1日5回の礼拝があります。夜明け前・昼・午後・日没・夜のタイミングで、決められた方向(メッカのカアバ神殿の方向)に向かって祈ります。
礼拝の前には、手や顔、腕、足などを水で清める「ウドゥー」と呼ばれる準備を行い、清潔な場所で礼拝マットを敷いて祈りに集中します。学校や職場でも、礼拝の時間になると静かな場所を探して祈る人も多く、信仰が日々の時間の使い方に直結しているのがわかります。
ムスリムの食事とハラール食品
イスラム教のルールに従い、ムスリムは日常生活の中でハラールかどうかを意識しながら食事を選びます。豚肉やアルコールを避けるだけでなく、肉類はハラール対応の店や商品を選ぶなど、できる範囲で工夫する人が多いです。
イスラム圏の国では、スーパーやレストランでハラール対応が当たり前ですが、日本のような非イスラム圏では表示をよく確認したり、ハラール認証マークを頼りにしたりしながら生活しています。最近は日本でもハラール対応レストランやハラール認証食品が増えてきており、ムスリムにとって過ごしやすい環境が少しずつ広がっています。
右手を使うことや異性との接し方
ムスリムの生活では、食事や握手などの場面で右手を使うことが好まれます。左手は不浄とされる場面が多いため、食事を手で取るときや物を手渡すときには、右手を使うのが礼儀とされているのです。
また、家族や近親者以外の異性との身体的な接触を避ける人もいます。そのため、握手を控えたいムスリムも少なくなく、日本人としては「断られた=嫌われた」と受け取るのではなく、「宗教上の配慮」と理解しておくとスムーズです。
ラマダン期間中の暮らし
ラマダンの期間中、ムスリムは夜明けから日没まで飲食を控えますが、日没後は「イフタール」と呼ばれる食事で家族や仲間と食卓を囲みます。日中は空腹と喉の渇きに耐えながら仕事や勉強を続け、夜になると特別な料理を囲んで団らんする、という生活リズムになります。
日本のような非イスラム圏で暮らしているムスリムにとっては、周りは通常どおり飲食している中で断食を続けることになるため、体調管理やスケジュール調整に工夫が必要です。周りの人が「今はラマダンなんだね」と理解を示すだけでも、本人にとっては大きな支えになります。
ムスリムとイスラムの違い
似た英単語の違いを説明してくれるサイトDifferenceBetween.netによると、MuslimとIslamの違いは以下のようにまとめられていました。
1 IslamもMuslimも預言者モハマドを通じてくだされた宗教をあらわす言葉。
2 IslamもMuslimもアラビア語の動詞s-l-mから来ている。
3 Islamが神の教えに従う行動(信仰)を意味するのに対し、Muslimは信仰に参加する人を意味する。
4 つまり、正確に使うならば、Islam、Islamicという言葉はイスラム教やその宗教上の考え方を示し、Muslimはイスラム教徒を指す。
端的に言えば、Islamがイスラム教で、Muslimがイスラム教徒というわけです。
同じく宗教名と教徒ということでは、キリスト教、キリスト教徒がそれぞれ”Christianity”、”Christian”、仏教、仏教徒がそれぞれ”Buddhism”、”Buddhist”です。合わせて覚えておきましょう。
ちょっと国語辞書を引いてみると、カタカナ語の「イスラム」、「ムスリム」も英語と同じようにそれぞれイスラム教、イスラム教徒を意味するんですね。
正直なところ、これまで両者の違いについて考えたことがありませんでした。ちょっとした違いかもしれませんが、自分がいかにイスラム教について何も知らないかということを改めて痛感させられました。
ちなみに、アラビア語のs-l-mは神への服従、そして平和という意味の言葉だそうです。
まとめ
ここまで見てきたように、「イスラム」は宗教そのもの、「ムスリム」はその信者という関係にあります。
イスラム教の教え(イスラム)と、それを受け止めて生きている人たち(ムスリム)は、当然ながら切り離せない存在です。
一方で、すべてのムスリムが同じように教えを実践しているわけでもなく、国や地域、個人によって捉え方や生活スタイルは大きく変わります。「イスラム教のルール」と「ムスリム一人ひとりの生き方」は重なりつつも、完全に同一ではない点も大事なポイントです。
ムスリムとイスラムの違いや言葉の意味を正しく理解したうえで、ニュースや身近なムスリムの人たちの姿を見るとき、宗教のせいにして一括りにしないという視点が自然と身についていきます。
ムスリムとイスラムの違いを知ることは、単なる用語の勉強ではなく、多様な価値観を尊重するための第一歩と言えるでしょう。












